コピーライターの裏ポケット

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2013年09月01日

小山佳奈 2013年9月1日放送

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「ケチャップがついてるのかと思った」

          小山佳奈

ケチャップがついてるのかと思った。
何にでもケチャップをかける先生だったから、
今日もうっかりシャツにケチャップを
こぼしたんだろうと思ったら違った。
廊下でうずくまっている先生の
胸のあたりに広がった赤黒いそれが
ナポリタンをおいしくさせるものでないことは
舐めてみなくても明らかだった。
その場に居合わせたヨウコは吐いた。
当然だ。
学校でそうそう血まみれの人には遭遇しない。
私はヨウコの背中をさすりながら
思ったよりもキレイじゃないなと思った。
もっともっと血は鮮やかで艶やかで
完璧な赤であるべきだと思った。
警察の人がたくさんいて泣いてる生徒がたくさんいた。
そうこうしてるうちに先生の奥さんが現れた。
奥さんの泣き声があまりにもすごくて
まわりの生徒の何人かは泣きやんだ。
第一発見者だった私とヨウコは警察まで行ったが
先生を刺した犯人が捕まるとすぐに家に帰された。
やる気のなさそうな中年の警察官が帰りのパトカーの中で、
先生は女子更衣室をのぞいていた変質者をつかまえようとして
逆ギレしたそいつに刺された、
幸い命は取りとめたようだと教えてくれた。
美術部の顧問の分際で慣れないことしなきゃいいのに、
とぶつぶつこぼしていた。

家に帰ったが真っ暗だった。母は今日も帰ってこない。
きっとまた若い男のところに行ってるんだろう。
お腹が減っていた私は、鍋に湯をわかしスパゲティをゆでた。
冷蔵庫から玉ねぎとピーマンを取り出してざく切りにし
缶づめのマッシュルームと一緒にオリーブオイルで炒めた。
そこにゆであがったスパゲティを入れ、
最後に大量のケチャップを合わせて皿に盛った。
出来あがったナポリタンを口に運ぶ。
途端に涙があふれ出した。
赤い血。
先生の赤い血。
真っ赤なウソだった。
私にはもうすぐ離婚するなんていってたのに。
本当の赤を教えてくれたのは先生だった。
ダリの赤、マティスの赤、
ピカソ、ゴッホ、モンドリアン。
奥さんはお腹が大きかった。
先生がよくつくってくれたナポリタン。
先生のナポリタンはケチャップが多かった。
ケチャップの味しかしないと言ったら
ケチャップはどんな料理もごまかせるんだと笑っていた。
真っ赤なウソを集めたナポリタン。
ホントはわかってたくせに。
泣いてる私は、アンポンタンか。
目の前のナポリタンが
赤を吸ってどんどん膨らんでいく。
世界中のウソが増殖していく。
私はいつまでも泣きやまない。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/



タグ:小山佳奈
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小山佳奈 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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