コピーライターの裏ポケット

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原稿と音声のアーカイブです




2013年12月15日

小松洋支 2013年12月15日放送

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           小松洋支

蜂蜜の入った甘い紅茶を飲む夢を見ていた私は、
突然めざめた。
深夜だった。
細めに開けた窓から、月の光とジャスミンの花の香りが部屋に流れこんでいた。

何かが私を呼んでいた。
とても遠いところから呼んでいた。
その声に導かれるようにドアを開け、階段を下り、
夜の庭にさまよい出た。

月が照っていた。
何の音もしなかった。
何の音もしない音 がしていた。

呼び声は続いていた。
その声には聞き覚えがあった。
それは私が生まれる以前のことだった。

私は庭にあるスズカケの木に近づき、幹を見つめた。
手と足がごく自然に動いて、気がつくと梢近くまでよじ登っていた。

「今こそその時だ」
私はそう思った。
何か が私にそう思うようにさせた。

まもなく手足の動きが止まり、
体が乾いた硬い物体に変わり、
やがてゆっくりと背中に亀裂が入った。

そこで意識が途切れた。

意識が戻ってきたとき、
私は自分に何が起こったかを悟った。

目の前に、自分が脱ぎ終わろうとしている 過去の自分の背中が見えていた。

はるかな声が、私に命じた。

「飛べ」

あたらしい私の背中で、大きな翼がはためいていた。
私の眼は万華鏡のように分割され、
夜の庭がいくつもそこに映りこんでいた。

「飛べ!」

再び声が命じた。

私はスズカケの梢を離れ、
月に向かって飛び立った。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/


タグ:小松洋支
posted by 裏ポケット at 22:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小松洋支 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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