コピーライターの裏ポケット

こちらのブログは
「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです




2014年05月25日

細川美和子 2014年5月26日放送

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武器商人
       細川美和子

こちら、どんなに泣いても
落ちない強力なマスカラ。
今ならどんなに泣いても落ちない
コンタクトレンズとセットで
お安くしておきます。
はい、そうです、黒目がちで、
さらに涙目に見える、破壊力が強いやつです。
あと、これ、いい感じに
やつれてみえるチークとシャドウ。
あんまりやつれすぎるとね、
逆にひかれちゃうので。
射程距離に行く前に、撤退されちゃうので。
ちょうどいい感じにね、
カモフラージュするのが肝心です。
それにさらに!
3キロやせてみえる紺のワンピース!
こちらをあわせれば、鉄板です。
いや、実際、3日でやせられる
液体酵素なんかも爆破力ありますが、、、
え?そんな武器、いらない?
本物の武器がほしい?
うーん、そういうお客さんがね、
最近多くてね、困るんですよね、、、
技術とか、能力とか、知恵とかね、
そういうリアルな
武器をほしがられてもねえ、、、
それ売り始めると、あっという間に
この世界終わっちゃうんで。
え?武器商人の詭弁?
いや、ほんとですよ。ほんとほんと。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:細川美和子
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2014年05月18日

小松洋支 2014年5月18日放送

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         小松洋支

神を見ようとした男がいた。
2137年のことである。

男はイスラエルのハイテク企業に働きかけ、
神のシミュレーションほど効果的なPRはない、と説得して、
その企業が製造しているスーパーコンピュータを、自由に使用する権利を得た。

男の考えは、こうだ。
古代から現在に至るまで、あらゆる時代、あらゆる地域に
さまざまなかたちの神が存在する。
それは、人間が、神の一部分だけ見ているからではないか。

神を象にたとえてみよう。
ある宗教は、象の鼻に触れて、神は長くて柔らかい、と言う。
またある宗教は、象の足に触れて、神は太い柱だ、と言う。
さらに別の宗教は、象の腹に触れて、神は大きな壁だ、と言う。
そんなふうに、あらゆる宗教が神の一部分しか捉えていないのだとしたら、
すべての部分をかき集めれば、神の全体が見えてくるはずだ。

男は、宗教の聖典を次々にコンピュータに読み込ませた。
聖書、クルアーン、あまたある仏典はもちろん、
ヒンドゥー教、ゾロアスター教、ジャイナ教、マニ教、神道などの経典。
さらには途絶えてしまった古代宗教から、
近現代に新しく興った宗教まで、できる限りを網羅し、
その教え、教祖のエピソードなどをインプットした。

経典をもたない宗教については、
シャーマンや人類学者を招き、その語るところを聞きとって入力した。
これらの作業に5年近い月日を費やした。

膨大なデータが集積されると、男はコンピュータに指示した。
「これらの情報から、“神”と呼ばれる存在をシミュレーションせよ」

コンピュータは解析を始めた。
3日目にシステムトラブルを起こしたため、演算装置を100ユニット増設した。

シミュレーションの結果をいち早く知ろうと、報道関係者も詰めかけていた。

10日目、突然、すべての処理が停止した。
エンジニアたちが、何事かとコンピュータ室に走った。
報道関係者も続いた。
彼等の目に映ったのは、両手に、引き抜いたコードを何本も握って
こみ上げる笑いに肩をふるわせている男の後ろ姿だった。

「プロジェクトは終了しました。
ついに神は目撃されたのです」

そう言うと、男は、ゆっくりと振り返った。
目の焦点が合っていなかった。

「神は私にだけその姿を現し、すぐにお命じになりました。
お前を唯一の預言者と定めて、われの教えを授ける。
われを信じ、われの導きに従うよう、世の人びとに伝えよ。
われを疑う者は、おそるべき災いを以て報いられるであろう」

男の手からコードの束が床に落ちた。
ふたたび襲ってきた笑いの発作をこらえながら、
男は、立ちすくむ人びとの方へ一歩踏み出した。


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タグ:小松洋支
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2014年05月11日

秋永寛 2014年5月11日放送

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「イグアナのこと」

           秋永寛

「ガラパゴスのリクイグアナは、生態系の頂点に君臨しているのです」
と、そのリクルートスーツの男は語り始めた。

「我がもの顔で島を歩き、個体数はどんどん増え続け、
 島中のサボテンを食べ尽くすに至ったのです。
 食料は尽きました。
 途方にくれ、海を眺めると、
 海草がゆらゆらと彼らの胃袋を誘うように身をくねらせているのでした。
 海は危険です。
 周辺の海流はとても強く、流されるともう島には戻れない。
 しかし、生き延びるには、他に選択肢がありませんでした。
 必死で岩にしがみつき、海草を食べ始めたのです。
 流されてなるものか、むしゃむしゃ。俺たちは生き延びるんだ、むしゃむしゃ。
 生命への執着は、イグアナにとある変化をもたらすことになりました。
 爪が硬く鋭くなったのです。
 海流に流されないよう、岩にしがみつける爪をもつ、ウミイグアナの誕生です。
 リクイグアナとウミイグアナ。
 自分に無いものを持つ相手に惹かれるのは、世の常なのでしょう。
 美しい浜辺で、リクイグアナとウミイグアナは結ばれました。
 数ヶ月後に生まれたのは、陸で生活しつつも爪が発達したハイブリッド種のイグアナ。
 地上のサボテンを食べるだけでなく、幹に爪をたて、
 木の上に繁る葉っぱを食べることができるようになったのです。

 こうしてイグアナはどんなピンチも、自ら変化することで生き抜いてきたのです」

そこまで一気に話すと、
面接官の前で彼は一呼吸つき、そして、続けた。

「どんなピンチもチャンスに変える、イグアナのような臨機応変さで、
 ワタクシも御社に貢献できたらと思っております」

最後は、こじつけでしかなかったけれど、なかなか立派な自己PRだった。
なるほど、、、と面接官は採点シートになにやら書き込んだ。
就活生は、自信に満ちた様子でドアを出ていった。

次の春。
その会社に、彼の姿はなかった。

代わりに、一匹のイグアナが新入社員として採用された。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/


タグ:秋永寛
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