コピーライターの裏ポケット

こちらのブログは
「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです




2010年02月14日

小松洋支 10年2月14日

pis01.jpg


                小松洋支


黒く、なめらかな山肌が左右から迫っていました。
V字型の谷に沿って一本の道があり、
いつからかわたしは、ひとり そこにたたずんでいるのでした。

道はまっすぐ続いているようでしたが、
遥か先で左に回りこんでいるようにも見えました。

歩きはじめたわたしは、まもなく なにかの音に気がつきました。
耳を澄ますと、どうやらそれは楽器の音らしいのです。

そういえば、この谷をこれまでに何度も歩いたような気がします。
その度ごとに何かしら楽器の音がしていたように思います。
そしていま聞こえているこの音、というより旋律にも
たしかに聞き覚えがあるのでした。



左手に銀色の山が見えていました。
金属のような光沢を放つ円錐形の山で、
頂上付近は丸みをおび、
黒い山肌のかなたで、しん、と静まっていました。

わたしは歩きつづけました。
もうずいぶん長い間歩いているというのに
疲れはまったく感じない というのは、
道が足元へと自然にたぐりこまれていくようだったからです。

銀色の山はいつも左手に見えていました。
ただそれは次第に近く、大きくなっていくのでした。



突然、旋律が途絶え、
道が山に向かって大きく曲がりこみました。
登山道の入り口かとわたしは思いました。

と、目の前に赤い平地がひらけ、
銀色の山が間近に迫り、
同時にわたしは見えない力で
一気に登山道の入り口まで押し戻されました。

いったいどんな運命なのでしょう。
それ以来わたし ナガオカは、
入り口と赤い平地の間を、ずっと往復しつづけているのです。

大きな手が神のように現れ、
不意にわたしをすくい上げてくれるのを 心待ちにしながら。



Voice:柴草玲 http://shibakusa.exblog.jp/



タグ:小松洋支
posted by 裏ポケット at 13:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小松洋支 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック