こちらのブログは
「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです
▼
コピーライターの裏ポケット
▲
2010年02月21日
上田浩和 10年2月21日

リモコン
上田浩和
ケータイと間違って、テレビのリモコンを持ってきてしまった。
会社の机の上に、本来家にあるべきリモコンがある光景は、
なんだか不思議なものだ。
パジャマ姿を見られたような恥ずかしさがあるなと思っていたら、
そのリモコンが電子音を鳴らしながら震えはじめた。
リモコンに電話がかかってきたのだ。
「もしもし」
電源ボタンを押し、リモコンに話しかける。
高校の友達からだった。
近いうちに飲みに行く約束をすると、
また電源ボタンを押してケータイを切った。
というよりも、リモコンを切ったのか、ぼくは?
これは、リモコンではないのか?ひょっとしてケータイなのか?
と、手の中の細長い物体を見る。
いや、リモコンだろ。だって、これでメールできないし。
いや、ケータイかもしれない。
だって、数字のボタンの配列は、ケータイっぽいし、
形も大きさも似ている。
だからこそ、間違って持ってきてしまったのだから。
ぼくは、リモコンだかケータイだかを手に、
子供のころからかけ慣れた番号を押す。
こういう自分では判断がつかないときは、
ひとまず子供電話相談室に電話することにずっと昔から決めている。
「あのお、ボタンがいっぱいのこれは何ですか?」とぼく。
「それは学生服に違いないね、
学ランには、ほら、たくさんボタンがあるだろ」と先生。
そうかそうか。
そういえば、ぼくが中学高校と6年間着た学生服、つまり学ランには、
金色のボタンがたくさんついていた。
なるほどね、ボタンがたくさんあるものは、ぜんぶ学ランなのか。
さすが子供電話相談室は頼りになる。
残念ながら、手の中の細長いものは、
ケイタイでもリモコンでもなく、学ランだったようだ。
さっきまでリモコンだと思っていたものを羽織ってみると、
サイズはピッタリのうえ、上から二つ目のボタンがない。
ぼくは思い出していた。
卒業式の日、ある女の子に第二ボタンをあげたことを。
ショートカットの似合うかわいい子だった。
せっかくだからこの学ランで、
その女の子に久しぶりの電話をかけてみようかと思う。
まだ、あのボタン、持っててくれてるかなあ。
Voice:柴草玲 http://shibakusa.exblog.jp/
タグ:上田浩和
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック