コピーライターの裏ポケット

こちらのブログは
「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです




2010年05月09日

小松洋支 10年5月9日放送

Basicdoorknob.jpg

双子
            小松洋支

わたしは一日中じっとしている。
すると人びとがわたしに手をさしのべてくる。
わたしは彼らのなすがままにさせる。
たいていの場合、彼らはわたしと親密な握手をかわす。
そしてきわめて淡白に別れる。

わたしが苦手なのはダンカン氏である。
手の甲が毛むくじゃらだ。
実際のところ蟹なんじゃないかと思う。
指が節くれだっている。
爪がでこぼこしている。
猫だったら飛びすさるだろうというくらいの勢いで
その無骨な手を突き出してくる。
汗ばんだ厚ぼったい手のひら。
引きずりこむような強引な握手。
濁音が耳障りな ダンカン氏のしゃべり声が聞こえてくるだけで
憂鬱な気分になる。


わたしが好きなのはあの人だ。
廊下にリズミカルなヒールの音が響き
シャンソンの鼻唄が聞こえてくる。
ワンピースの長い裾をひるがえして
オコンネル夫人が現れる。
そばに誰もいなくても微笑を絶やさない。
手をさしのべるポーズに品がある。
握手にしたってまるでカナリアの雛を扱うように
ごくそっと手をそえるだけ。
ときにはレースの手袋をしている。
オコンネル夫人とならずっと握手をしていたいと願うのだが、
やはりわたしたちは淡白に別れる。


ところで双子の妹はどうだろう。
誰が好きで誰が苦手なんだろう。
確かめてみたいとは思うのだけれど、
ドアを挟んで正反対に頭を突き出しているわたしたちが
互いに意見をかわすことはない。




出演:柴草玲
タグ:小松洋支
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小松洋支 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。