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コピーライターの裏ポケット
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2010年05月30日
中山佐知子 10年5月30日放送

アトム
中山佐知子
アトムが地球のために太陽にダイブすることに決まったとき
まず騒ぎだしたのは愛護団体だった。
罪もないロボットに無用の苦痛を与えてはいけないというのがその趣旨で
ロボットに肉体的な苦痛があるのかという意見を受けて
アトムがもし寸前になって恐怖を感じることがあれば、
それは苦痛と解釈するべきだと主張した。
確かにアトムは誰が見ても
人間の子供と同じような感情を持っているように思えた。
愛護団体に動かされたわけではないと思うが、
何人かの政治家が発言しはじめた。
こちらは論点が明快だった。
太陽にダイブするということは
当然アトムがロボットとしての命を投げ出すことだ。
もし、土壇場でアトムの気持ちが変わったら
地球は滅亡してしまうだろうというのが彼らの意見だった。
このような議論をアトムはすべて受け入れた。
人々はアトムの中からアトムを人間らしくしていたすべての機能をとりのぞき
意志も感情も持たない人間型ロボットに作り替えてしまった。
さあ、アトム。出発だよ。
世界中の人々が見守る中でアトムが飛び立つ日がやって来た。
しかしただのロボットになってしまったアトムは、
自分が生まれた地球に対しての愛着ももはやなく、
人間への同胞意識もなく、
まして、地球のために自分が犠牲になるなどという考えもなくしていた。
アトムは、どうして自分が太陽に飛び込んで自爆するなどという行為を
しなければならないのかを理解しないまま
遠くの空へ勝手に飛んで行ってしまった。
出演:柴草玲 http://shibakusa.exblog.jp/
タグ:中山佐知子
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