コピーライターの裏ポケット

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2010年09月13日

小松洋支 10年9月12日放送

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不思議の国

小松洋支

わちきが煙管を吸いつけようとしておりましたら、
廊下をどたどたと大きな音をたてて走る音がするもんざますから、
お客に呼ばれた若い衆(わかいし)がまた無作法にと、
ちょっと襖を開けてのぞいてみると、
「てえへんだ、遅れちまう」
独り言をいいながら走っていくのは、なんと白うさぎ。

いったい何者と、後を追うと廊下の突き当たり、
階段があるはずのところに大きな穴が口を開けておりまして、
わちきは「あれー」という間もあらばこそ、
穴の中に落っこちてしまったんざますの。

気がついたら森の中。
はてさてどうしたものかと困り果てておりましたら、
木の上に何やら猫の顔が、と申しますより、
猫のにやにや笑いが浮かんでおりまして、
あちらへ行ってみよ、といいますので参ってみますと、
緋毛氈の上に殿方が座ってお酒を飲んでおいでで、
「いよっ、花魁。
 めでてえことがねえのが、めでてえってわけで、飲んでんだよ。
 一杯(いっぺえ)どうだい」
「いえ、ちょいと用がござんして」

やりすごしてしばらく行きますと、
花札の胴体をした珍妙このうえない町人どもが
なにやら大勢集まって、わいわい騒いでおりますのが、
鶴の脚を持って、ももんがの球をひっぱたくという
それはもうおかしな遊びをしてるんざます。

後ろで大声をあげているのは小野東風の札が胴体になった殿方で、
どうやらお大名らしく、柳の枝をふりまわしながら、
やれ打て、それ打てと、やかましいこと、やかましいこと。
挙句、打ち損じた「梅に鶯」を手打ちにするといい出す始末。

わちきを見つけると「近う、近う」など手招きするので、
「花札のお相手は、堪忍してくんなまし」
と剣突をくわせる途端に、大名も町人も元の花札に戻り、
ひらひらと風に舞い散りまして、
いえもう、ほんにここは
不思議の国でありんす。



出演:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/

タグ:小松洋支
posted by 裏ポケット at 08:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小松洋支 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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