コピーライターの裏ポケット

こちらのブログは
「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです




2010年10月31日

上田浩和 10年10月31日放送

a1030_000227_m.jpg


戦艦大和


                  上田浩和


戦艦大和を引き揚げるためにはまず、
ぼくが2つの罪を犯さなくてはならない。
ひとつは、宅急便の配達員の制服を盗むこと。
ふたつめは、詐欺だ。
その制服を着て配達員を装ったぼくは、
早朝、あるアパートの一室をノックする。
まだ寝ぼけた人に、ぼくを偽の配達員と見抜けるわけもなく、
偽の荷物を手渡したあと「サインください」と
借金の借用書を出したとしても、
すんなりと連帯保証人の欄にサインしてしまうはずだ。
これでぼくは大きな罪を背負うことになるが、
戦艦大和引き揚げのためには、しばらくの刑務所暮らしは覚悟の上だ。
その後、同じ部屋の扉を今度は、取り立て屋が叩く。
執拗すぎる脅しによって、
その部屋の住民は自ら命を落とすことになるかもしれないが、
それも戦艦大和の引き揚げのためには必要な犠牲だ。

その一方で、ドアを叩く取り立て屋に声をかける初老の男がいる。
男は、ボクシングの名トレーナーで、
取り立て屋のパンチに惚れ込んだのだった。
それから3年後、ついにベルトを勝ち取った取り立て屋は、
リング上でこう叫ぶだろう。
「エイドリアーン!」
そんなのロッキーの見すぎだと思われるかもしれないが、
戦艦大和の引き揚げのためには、
ロッキーは見過ぎるぐらいがちょうどいい。

その試合をテレビで観戦していた女がいる。
イタリア料理屋のオーナーであるその女は、
取り立て屋の雄叫びを聞いたとき、
魚のエイをつかったドリアをひらめく。
エイドリア、である。
ダジャレかよ!と思う人もいるかもしれないが、
戦艦大和の引き揚げのためにはダジャレは重要だ。
エイドリアは、評判となり女の店は連日大行列となる。
エイ人気は他の料理にも飛び火し、
海は一時期、エイ漁の漁船で埋め尽くされる。
長崎県男女群島周辺の海にも、漁船の姿はある。
その長崎県男女群島こそ、戦艦大和が沈む場所だ。
ここで、まさかと思う人もいるだろう。
まさか漁船の網に、
戦艦大和が引っかかるなんてオチじゃないだろうなと。
しかし、そのまさかである。
これは戦艦大和の引き揚げのために神が用意した
まさかの予定調和なのだ。
そして、ぼくが宅急便の制服を盗んだ日から、およそ1500日後の
新聞は、戦艦大和引き揚げの記事がトップを飾ることになる。

といったわけで、戦艦大和を引き揚げるためには、
ぼくの2つの罪と、ひとりの住民の犠牲と、ロッキーの見過ぎと、
ひとつのダジャレと、ひとつの予定調和が必要だとぼくは考える。



出演:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:上田浩和
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 上田浩和 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がない ブログに表示されております。