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コピーライターの裏ポケット
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2011年02月14日
小松洋支 2011年2月13日放送

三者会談
小松洋支
「なんといっても、一番はぼくたちです」
ギョウザが言いました。
「とりあえずビールとギョウザね、ってみんな言うでしょ。
まっ先に注文するのは、いちばんうまいものだからですよ」
「いやいや、それはギョウザがすぐできるからだよ」
シュウマイが反論しました。
「おれたちシュウマイは蒸さなくちゃならないんだ。
お手軽なギョウザで場つなぎをしておいて、
ふっくらしたシュウマイが蒸しあがるのを待つ。
メイン料理は最初に出たりなんかしないさ」
「あらあら、いさかいはいけませんわ。
ギョウザもシュウマイも、どちらも“点心”。お仲間じゃありませんか」
ワンタンが口をはさみました。
「そこへいくとわたしたちはスープの中に浮遊するという、
あなた方とはまったく次元の異なる食べ物なんですのよ」
「あなたは自立してないんですよ。
いわばスープにおんぶにだっこ」
「おんぶもだっこもされてませんわよ。
スープとのコラボレーションですの」
「ワンタン麺なんていうのもあるよね。
あれもコラボかい?
麺の添えものなんじゃないの、本当のところは」
「添えものとは聞き捨てなりませんわ!
シュウマイなんか“焼(き)売(り)”って書くんでしょ。
焼いてなんかないじゃないの、このイカサマ師。
私たちワンタンをごらんなさい。
“雲を呑む”。 なんて詩的な表現なんでしょう」
「漢字を食べるわけじゃないんです。
一番がギョウザだという証拠がある。
駅前に大谷石の像が建ってるのを知らないとは言わせませんよ」
そのとき店に客がひとり入ってきました。
ギョウザとシュウマイとワンタンは話をやめ、
牽制するようにお互いを見やりました。
「えーと、とりあえずビールと」
客はお手拭きで顔を撫でながら言いました。
「春巻」
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
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