コピーライターの裏ポケット

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2011年07月03日

佐藤延夫 2011年7月3日放送

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「節電は大切です」                      

                 佐藤延夫


ちょっと、節電の話をさせてください。
いや、その前に僕の話をさせてください。
いずれ話が繋がりますから。
それはトイレでの出来事です。
あ、食事中でしたらすみません。
それほど汚い話じゃないので、我慢して聞いてください。
僕の会社の男性用トイレは、大をする個室と小をする便器がふたつずつあります。
そのとき僕は、奥のほうの個室に座っていました。
用を足してほっとしていると、
ドアを開けて誰かが入ってきたのです。
よくあることですが、
そういうとき僕は物音を立てないようにしています。
「あ、大のほうに誰か入ってる」と思われるのが嫌なんです。
だから水を流したり、トイレットペーパーをカラカラさせたり、
なんていうのはもってのほかで、
冬の昆虫みたいに、身体をぴくりとも動かしません。
幸いにもその人は、小のほうがしたかったらしく、
なんとなくそれらしい音が聞こえてきました。
するとまたドアが開き、お疲れさまです、という声がしました。
声から判断するに、後輩の山岸くんのようです。
山岸くんは、僕の隣の個室に入ってきました。
これで狭いトイレには、3人の男が揃ったわけです。
まず奥の個室に、僕。
手前の個室に、山岸くん。
そして小のところに、謎のA氏。
はい、ここで節電の話になるわけです。
トイレを使ったら電気を消す。
弊社でこのルールは遵守されていたのですが、
ここで信じられない事件が起こります。
小を済ませた謎のA氏。
手を洗い、ドアの開く音が聞こえたと思ったら、
トイレの電気も消しました。
おかしな話です。
だってA氏は、後輩の山岸くんと挨拶を交わしているわけですから。
しかし現実は残酷です。
セオリー無視の出来事が起こります。
野球で言うならノーアウト2、3塁の場面、
フォアボールで歩かせて満塁策をとったところで、
次のバッターに危険球を投げるようなものです。
咄嗟に思いついた喩えなので、あまり面白くありませんね。
暗闇の中、隣の個室から山岸くんのか細い声が聞こえます。
「でんき・・・・」
僕はそれでも、動こうとはしませんでした。
目が慣れるまでには、かなりの時間がかかりました。
それでも節電は、大切です。



出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/


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