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コピーライターの裏ポケット
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2011年06月26日
上田浩和 2011年6月26日放送

コジコジ!
上田浩和
友達のこじまくんは、
東京の美術大学を卒業したあと、会社員をしている。
あだ名はコジコジ。こじまだから、コジコジ。
笑うとピンク色の歯茎がむきっと出る。
むきっと出るから、ムキムキというあだ名でもいいかもしれないけど、
でも、やっぱりそこはコジコジのほうがあだ名としてはふさわしい。
美術大学出身だけあって、コジコジは絵が上手だ。かなり上手だ。
ぼくがふさぎ込んでいるときなんか、
そっとおっぱいの絵を描いてなぐさめてくれるけど、
その膨らみを描くなめらかなラインは、
素人にはちょっとまねできない。
コジコジは、今度結婚する。
相手は、ぼくも知っている女性だから、
あのおっぱいのモデルはひょっとして!とどきどきするぼくは、
コジコジに謝らないといけないかもしれない。
その結婚式でぼくはスピーチを頼まれた。
緊張しいのぼくは、人前で話したりするのが大の苦手だけど、
コジコジのお願いとあっては、
しかもそれがコジコジの人生の門出とあっては断ることもできない。
せっかくだからラブレターにしようかと思う。
とびきり愛情のこもったこんな感じの。
「コジコジ。結婚おめでとうなんて言わないよ。
おれはおまえの歯ぐきが好きだったから。
もし結婚するというなら、歯ぐきだけは置いていってくれ。
おまえの歯ぐきのピンクは桃と同じ色だ。
おまえが笑うたび、おまえは桃を食べているのかと思ったほどだ。
だからおまえが笑いながら歩いているのを見かけるたびに、
向こうから桃が流れてくるようだと驚いた。
桃が流れているのを見て驚いた人物は、歴史上もう一人いる。
桃太郎の中のおばあさんだ。
おまえの歯ぐきを割ってみないか。
今、きみたち二人がウェディングケーキを切ったそのナイフで。
桃太郎が実話なら、おまえの歯ぐきからも赤ん坊が産まれるかもしれない。
その赤ちゃんをおれとふたりで育てようじゃないか。
はぐき太郎がおまえの描いたきびだんごの絵を持って、
旅に出るその日まで。
冗談だよ、コジコジ。
これ以上、おまえの困った笑顔の隙間からのぞく歯ぐきのピンク色を
見たくないから言うことにするよ、結婚おめでとう」
人前でちゃんと読めるか心配で仕方ないけど、
もうコジコジは励ましてはくれない。
ぼくはひとりでがんばるしかない。
これからは自分でおっぱいの絵を描くしかない。
描けるかな、ぼくに。あのコジコジのようなふくよかなラインが。
描けるかな。いや、きっと描けるようになってみせるよ。
自分一人で立ち上がれるようになるよ、ぼくは。
だから、おめでとう!コジコジ!
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:上田浩和
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