コピーライターの裏ポケット

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2011年07月31日

上田浩和 2011年7月31日放送

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耳がバタバタ

                 上田浩和


らっきょうは食べるとおいしいのに、
せつなくなるのは、なぜですか?
という質問を急にされたらどうしよう。困ってしまう。
ぼくには、困ったことがあると、耳が大きくふくらんで、
それをバタバタさせて飛んで行ってしまうという悪い癖があるので、
人前でそうならないようにするためには、
今のうちから答えを準備しておかなければいけない。

らっきょうは、書くと、「らっきょう」だけど、
口に出して読むときは、「らっきょ」。
読まれない「う」は、自分の存在に疑問を感じ、ある日、
らっきょうの元を飛び出してしまいました。

それは、オードリー・ヘップバーンの場合も、同じ。
書くときは、オードリーとヘップバーンの間に丸い「点」が表記されるけど、
口に出しては読まれません。
コカ・コーラとか、ダ・カーポとか、
シャルル・ド・ゴール空港とかもそうですね。
自分がかわいそうになった「点」も、
オードリー・ヘップバーンから家出してしまいました。

「う」と「点」は、銀座で偶然出会いました。
そして、これまでを取り戻すために、
お互いの名前をなんどもなんども呼び合いました。
「う」
「てん」
「う」
「てん」
「う」
「てん」
そのうち抱き合って泣き始めたふたりを、
悲しい出来事が襲いました。
「点」がにじみはじめたのです。
じつは、水性のペンで書かれていたその「点」を、
皮肉にもふたりの涙が、にじませてしまったのです。
気がついたときには、
あの美しいオードリー・ヘップバーンの点だった美しい点が、
とけたようにもう点ですらなくなっていました。
「う」は、「世界の中心で愛を叫ぶ」の空港でのシーンみたいに、
「てーん」と呼びました。

らっきょうには、そういうせつない背景があるから、
食べると、おいしくて、でもなぜかせつなくなるのです。
食べると、口のなかでいい音がして、
でもなぜか心がざわつくのは、そのせいなのです。

という答えを用意したけれど、もし、
らっきょうを食べると急にお母さんに電話したくなるのは、
なぜですか?
と聞かれた場合はどうしよう。
ああ。耳がふくらんできた。ああ。バタバタしはじめた。バタバタ。





タグ:上田浩和
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 上田浩和 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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