コピーライターの裏ポケット

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2011年08月14日

小松洋支 2011年8月14日放送

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              小松洋支

目の前に扉がある。
その扉の両側にも、同じような扉がある。
石の壁に明りとりの窓があるせいで、あたりはほの明るい。
天井はよほど高いのか、うす闇の中にまぎれている。

目の前の扉を手前に引く。
がらんとした部屋の端っこに古い木のテーブルがひとつ。
テーブルの上にはランプと分厚い本が一冊。
近寄って本のページをめくる。
めくっても、めくっても、白紙。
ようやく見つけた一行には、こう書いてある。
「あなたが探しているものは、まだ開けていない箱の中にしかない」

部屋を出て、右隣の扉をひらく。
ロープのようなものがうず高く積まれている。
あるいは、とぐろをまいている。
太さは大人の腿くらい。
黒とピンクのまだらで、いちめんに産毛がはえている。
その長いものの一部がボール状に膨らみ、
膨らんだ部分が管を伝わるように、ごぼりごぼりと移動していく。

部屋を出て、右隣の扉をひらく。
4人の宣教師が横向きに立っている。
それぞれの手には、西洋梨、ろうそく、猿の剥製、血のついた斧。
ひとりずつ、順番に、ゆっくり、こちらを向く。
4人とも目が片方しかない。

部屋を出て、いくつか扉をとばし、不安に駆られながら次のノブを回す。
土砂が崩れるような音がして、ものすごい数の角砂糖が転がり出てくる。
どうやら部屋全体が砂糖壺になっているらしい。
角砂糖の重みを必死で押し戻し、やっとの思いで扉を閉める。

ふり向くと、反対側の壁にも扉が連なっている。
首筋に冷たい汗が吹き出す。
夢中で走って行って、いちばん手近な扉を開ける。
中はからっぽで、なにひとつない。
おそるおそる部屋の真ん中まで足を進める。
と、かすかな音が聞こえはじめる。
カサカサ カサカサ
聞き覚えのある乾いた音。
これはなんの音だったか。

そうだ。
つかまえたカミキリムシを紙の菓子箱に入れ、
錐で空気穴を開けて、枕元に置く。
すると、虫が外へ出ようとして箱の中を夜通し這いまわる音が、
夢の中にまで聞こえてくるのだ。

カサカサ カサカサ
カサカサ カサカサ

そのとき、部屋の扉が、不意に通路側から閉じられた。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:小松洋支
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小松洋支 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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