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コピーライターの裏ポケット
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2011年09月04日
中村直史 2011年9月4日放送

写真:中村直史
バカみたいな想像
中村直史
きょうも生きている。バカみたいに生きている。
バカみたいに目を覚まし、バカみたいに歯を磨き、
バカみたいな満員電車にゆられ、バカみたいに売り上げを伸ばす。
バカみたいに議論し、バカみたいにその場をごまかし、
バカみたいに会社とか国とかの悪口をいい、
バカみたいにバカヤローと叫んだりして、バカみたいに酔っ払い、
バカみたいに家路につき、バカみたいにのどが渇いたと、
バカみたいに水をがぶのみする。
バカみたいにおおげさなため息をつき、
バカみたいにくたびれたズボンを脱ぎ、
バカみたいに硬いベッドに、バカみたいに倒れこむ。
テレビのスイッチを入れる。
バカみたいに高性能で、バカみたいに薄型の、
バカみたいに明るいテレビ画面の中で
バカみたいな話を、バカみたいに大声で話す人たちを眺め、笑う。
バカみたいに笑う。エヘヘ。
目を閉じる。
バカみたいな想像をしてみる。
真っ暗闇の中、ぼくは線路の上を歩いている。
バカみたいに長く、バカみたいに冷たくて、
バカみたいにまっすぐ伸びる線路の上を。
そこは真っ暗すぎて、線路がどこまで続いているのか、
どの方向に向かっているのか
なにもわからない。せめて月明かりがあれば、と願うのだけれど、
光はどこにも見えず、物音もなく、
やがて駅にたどりつくのか、
そこに人がいるのか、手がかりは何もない。
歩みを止めてはいけないんだろう、とそれだけはなぜか確信している。
バカみたいに寂しくて、
でもその寂しさに目を向けるとどうにかなってしまいそうで、
ただただ歩くことに集中している。
バカみたいに足を踏み出しつづける。
目を開ける。
きょうも、バカみたいだったぼくは、
どうかあしたこそは、
バカみたいな一日じゃありませんように、
と祈ってみる。
バカみたいに強くこぶしを握り、
バカみたいにろれつのまわらなくなった口で、
バカみたいにつぶやいてみる。
なにかができますように。
なにかをごまかしませんように。
なにかをちゃんと感じられますように。
なにかが上達しますように。
なにか大事なことを忘れませんように。
どうか、どうか。
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
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