コピーライターの裏ポケット

こちらのブログは
「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです




2011年12月18日

細川美和子 2011年12月18日放送

hoso.jpg

双子の時間

               細川美和子

ある村に双子が生まれました。
双子がうまれるのは
その村では不吉とされていたので
ひとりは村にとどまり、
ひとりは村にきた船乗りにたくして
遠くにやることになりました。

ひとりは、
生涯を同じ村で暮らし、
何十年もその場所で
四季の移り変わりを見届けました。
枯れ葉をふむ音で
その年の寒さがどれほど
厳しいものになるか、
山の奥の湖にやってくる渡り鳥の数で、
次の桜の咲く時期がいつごろになるか、
村のだれがだれを恋慕っているのか、
あるいは恋慕っていたのか、
彼はなんでも知っていました。

もうひとりは、
生涯を海を旅して暮らし、
同じ場所に決してとどまることなく、
世界中の町で人々の暮らしを見てまわりました。
たくさんの言葉をしゃべり、
珍しい物を食べ、
あやしい祭りで酒を飲んで踊り、
その土地その土地の衣装を身につけ、
いろんな肌の色の女と恋をし、
彼はなんでも知っていました。

あるとき、海を旅していたほうのひとりが
船のへさきになつかしい風景を見つけました。

それはかつて自分を
船にのせて世界へとおくりだした村で、
浜辺にはひとりの男がたっていました。

その顔は複雑なしわやしみや
ひげにびっっしりと
おおわれていましたが
生涯をだれと比べることもなく
静かに闘ってきた男の顔をしていました。
そう、なにもかもが
自分そっくりな男の顔でした。

船の男は不思議に満足した気持ちで
その男に手をふりながら
村に帰ることなく、
まだ旅を続けることを決めたのでした。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:細川美和子
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 細川美和子 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック