コピーライターの裏ポケット

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2012年03月25日

上田浩和 2012年3月25日放送

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ランディでもなく、岡田でもなく。

           上田浩和

わたしは、地元の警察署で落とし物係をしている。
管轄内の落とし物は全部、わたしのところに届けられることになっていて、
いわゆるわたしは、このあたり一帯の拾う神なのである。
多い落とし物ベスト3は、わたし調べによると、
1位財布、2位携帯電話、3位鍵。
そしてたまにあるのが動物。
無責任な輩どもに捨てられたペットたちに同情し、
自分の部屋に連れ帰ってきた結果、今、わたしは、
犬とうさぎとハムスターに囲まれて暮らす31歳の寂しい独身女だ。
しかも31歳は今日までで、明日、32歳の誕生日を迎える。

わたしは、この31歳という一年を、
元阪神タイガースの掛布の顔ですごした。
31とは、現役当時の掛布の背番号なのだが、
たったそれだけの理由で、去年の31歳の誕生日に、
プロ野球の神により顔の遺伝子を掛布に組み替えられたのだった。
そして31歳最後のこの夜、わたしは部屋で一人、
鏡に映った自分の顔を眺めながらこの一年を振り返っていた。
いろいろあった。巨人ファンの係長からは辛くあたられ、
サッカー好きの彼氏にはふられた。
でも、たった一年の辛抱だと思えば耐えられた。
わたしには、うさぎがいたし、ハムスターがいた。
犬だけは、突然顔が変わった飼い主に対して吠えまくっていたけど、
今ではなついてくれている。
明日起きたら、わたしは32歳になっていて、
顔もおそらく背番号32の選手の顔にされていることだろう。
過去、背番号32をつけた有名なプロ野球選手には、
元ヤクルトの尾花や元阪神の坪井がいる。
どちらの顔になっているかは明日にならないと分からないが、
どちらにしても、掛布の顔に比べたら何万倍もいい男だとわたしは思う。

今日、以前管轄内で起きたある事件の犯人が逮捕された。
そのことを受けて、わたしは考えた。
犯人は、捕まる直前にどこかで運を落としたに違いない。
運を失った犯人は、そのせいで捕まったのだ。
運を落とした犯人と、落とし物になった運。
もしその運が誰かに拾われ、明日、わたしのところに届けられたとしたら、
わたしの明日からの人生は、ちょっとはよくなるのではないだろうか。
そう思うと、尾花か、坪井か、そのどちらかの顔で生きる32歳という一年が、
不思議と楽しみになってきて、わたしはいつのまにか笑っていた。
すると、鏡のなかでは掛布も笑っていた。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:上田浩和
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 上田浩和 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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