コピーライターの裏ポケット

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2012年06月24日

上田浩和 2012年6月24日放送

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乾燥肌

             上田浩和

いま、ぼくは、タバコの煙がたちこめる喫茶店のソファ席で、
左手で左頬に化粧水をぱんぱん打ちつけ、
右手では窓の外を指差しながら、
「あいつがシンデレラのカタキですよ!」
と大声で叫んでいるのだが、それには理由がある。

今から3時間前。
ぼくは、お台場にあるホテルのラウンジで、
1杯1000円もするカフェラテを飲んでいた。
口に含むたび1000円札を細かくちぎって煮詰めたような、
深みのある苦味が広がり、やはり1000円は違うと思った。
向かいの席ではシンデレラのカタキと名乗る女が、
1杯850円もするブレンドコーヒーを飲んでいた。
85個の宇治平等院をめっためたにぶち壊し粉末状にしたものを
焙煎しドリップしたような、
そんな豊かな酸味を女は楽しんでいるように見えた。

その1時間後、つまり今から2時間前。
することもないのでぼくは女と銀座のデパートに行き、
1階の化粧品売り場で乾燥肌チェックを受けた。
店員は「けっこうカサカサでお困りでしょうね」
というような感想をぼくが乾燥肌だっただけに言い、
カタキの女の方には、潤い肌だっただけに潤いを言った。
ぼくはそこでやたらと高価な化粧水を買った。

降りしきる雨のなか、
この喫茶店にきたのが今から1時間前のこと。
ぼくはまたカフェオレを注文した。560円だった。
1000円からは440円分遠い風味がしたので、
逆に440円分の風味がどの程度であるかが何となく分かった。
女のブレンドコーヒーは520円だった。
つまり、お台場で飲んだコーヒーよりも、
330円安いことになるが、その表情からも、
宇治平等院33個分の酸味が足りないないことがうかがえた。

ぼくはトイレに立ち、洗面台で顔を洗った。
梅雨の陰鬱さが顔中に張り付いたようで気持ち悪かったからだ。
席に戻り化粧水を両ほほにパンパンしはじめると、
女はなにもいわずに店をでていった。
それと入れ替わるように警察官が入ってきて
「ここにシンデレラのカタキがいるって通報があったんですけど」
と言うものだから、
いま、ぼくは、タバコの煙がたちこめる喫茶店のソファ席で、
左手で左頬に化粧水をぱんぱん打ちつけ、
右手では窓の外を指差しながら、
「あいつがシンデレラのカタキですよ!」
と大声で叫んでいるというわけなのだ。
シンデレラのカタキのやつ、いったい何をしでかしたのだろうか。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:上田浩和
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 上田浩和 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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