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コピーライターの裏ポケット
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2012年09月30日
上田浩和 2012年9月30日放送
読書感想文
上田浩和
そのうさぎをはじめて見たときは、
頭の中が疑問符でいっぱいになった。
なんでこのうさぎは、八頭身なんだろう?
なんで筋肉質なんだろう?
なんでずっと腹筋ばかりしているんだろう?
なんで黒いスパッツをはいているんだろう?
いつの間にぼくの部屋に入ってきたんだろう?
どうやって入ってきたんだろう?
などなどいろいろと謎の多いうさぎではあったが、
そんなことは気にも留めず、ぼくはそのうさぎの隣で、
今年の夏、ずっとジュール・ヴェルヌの「十五少年漂流記」を読んでいた。
読書感想文の宿題が出ていたのだ。
残念ながら十五少年漂流記は、
十五才の少年が盗んだバイクで夜の街を駆け回る話ではなかった。
ぼくは不良に憧れる十五才だけど、
万引きもカツアゲも実際にはできない臆病者だから、
それっぽい不良小説を読んで、
そのなかに登場する不良たちにいろんな不良的行いを
代行してもらうために読みはじめたのに、
この小説のなかには十五人も少年が出てくるにもかかわらず、
バイクを盗むようなことは誰もしなかった。
うさぎは、朝起きてから寝る直前までずっと腹筋をしていた。
うさぎの腹筋はみるみるうちに割れていった。
通常、腹筋は割れても六つだが、このうさぎの場合は違った。
八つに割れ、十二に割れ、二十四に割れ、
そのうち腹筋の領域を越えて脇腹まで割れはじめた。
そして、ぼくが十五少年漂流記を読み終わる頃には、
うさぎの腹筋は、縦に二十、横に二十、計四百に割れていた。
まるでお腹に四百字詰めの原稿用紙が一枚張り付いているように見えた。
「おまえいい原稿用紙もってんじゃん」
ぼくは不良ぽく言ってみた。
「読書感想文書かせろよ」
本質をついたなかなかいい読書感想文が書けたと思ったけど、
読んだうさぎの反応は違った。
両耳を不満げに垂らして、この作文つまらないアピールをしてきた。
「なんだよ文句あんのかよ。金だせよ」
かっとなったぼくに対してうさぎは首を何度もふった。
「じゃあそこでジャンプしてみろ」
ポケットに小銭を隠してないかを確認するために、
そう言って脅すのは不良の常套手段なのだが、それがいけなかった。
うさぎはぴょんぴょんはねると、窓から飛び出して、
そのまま月に帰ってしまったのだ。大きなジャンプだった。
月を見上げながら思った。
うさぎが納得いく読書感想文って、
いったいどんなものだったんだろう。
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
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