コピーライターの裏ポケット

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2013年03月10日

中山佐知子 2013年3月10日放送

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停電になった

       中山佐知子


停電になった。
最初は誰もが地域だけの小規模停電だと思っていたが
やがて世界規模であることが突き止められていった。

数日たっても電車は動かず、電話もインターネットも繋がらず
テレビも消えたままだった。
電力会社が総力を挙げて発電した電気は
ブラックホールのような何かに吸い込まれてしまうのだ。

発電装置を持つ病院や官公庁では
ロビーに大型テレビを置いた。
小学校高学年の児童はたまに流れるニュース番組を壁新聞の記事にして
学校の塀に貼り出した。
郵便局は郵便物の仕分けのために自衛隊の出動を要請した。
道路の信号は消え
ドライバーは注意深く運転をするようになった。

ある日、首相官邸近くに住む76歳の女性が官邸の警備員に
うちの黒電話にホワイトハウスから電話がかかっていますと告げた。
官邸の蓄電装置が故障して一時的または恒久的に
通信ができなくなっていたのだ。
このニュースによって停電でも黒電話は繋がるという事実を
認識した人は多かったが
黒電話はどこで入手できるかという情報はどこにもなかったし
安否をたずねたい田舎の婆ちゃんが携帯電話を使っていると
やっぱり繋がらないことに変わりはなかった。

3月だったが寒かった。
火鉢や炭が高価で取引されていた。
桜はいつ頃咲くのかをネットで調べるかわりに
人々は桜の木を見上げ、ツボミの様子に注意を払うようになった。

そのツボミが膨らんでもうすぐ花が咲くという頃に
停電は突然終った。

数日後、まともに配達されるようになった新聞の片隅に
小さな記事が載った。
記事は読み始めた人が偏頭痛を訴えるほど
英語と専門用語がちりばめられていたが
要するに地球外知的生命体、つまり知能を持つ宇宙人をさがす
ET@HOMEという団体が
アレシボ天文台のデータを解析した結果
膨大なノイズのなかから
宇宙人が発信したと思われる信号を発見したという記事だった。

朝食のテーブルでその記事を読んだひとりの数学者が
その信号を発見したコンピュータの使用電力を計算してみたら
世界規模の停電の間に失われた電力に相当した。

宇宙人のメッセージを受け取るために
世界中の電力が必要だったのか…
数学者はまた近々停電があるかもしれないと
うんざりした様子で新聞を放り出した。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/


posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 中山佐知子 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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