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2013年03月31日

上田浩和 2013年3月31日放送

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グラッデン

           上田浩和

グラッデンをご存知でしょうか。
1994年、読売巨人軍に入団したいわゆる助っ人外国人選手です。
ヘルメットからはみ出すほどの長い金髪と、
口髭が印象的な白人男性で、
当時、巨人ファンの間ではハルクホーガンに似ていると騒がれていたそうです。
でも、野球に興味のないわたしは、
そんな名前、それまで一度だって耳にしたことはありませんでした。
それなのに、32歳の誕生日、わたしの顔はグラッデンにされたのです。
わたしは、プロ野球の神様に聞きました。
なぜ女のわたしが、グラッデンみたいなわけの分からない
男の顔にされなくてはならないのかと。結婚もまだなのに。
プロ野球の神様は言いました。
グラッデンの巨人時代の背番号は32だった。
32歳になった女と32番を背負った男。
その数字の偶然を大切にしなさいと。

顔をグラッデンにされてから何度か合コンに行きました。
わたしはもちろん女側に座り、
男たちには必ず最初に巨人ファンかどうかを尋ねました。
そして巨人ファンの男に対しては、
この顔を武器にして距離を縮めようとしました。
でも、誰もグラッデンのことなんて知りませんでした。
巨人時代のグラッデンは中途半端すぎたのです。
メジャーリーグでの実績を買われ、
鳴り物入りで入団したものの結局1年で退団。
打率2割6分7厘。ホームラン15本。
そんな成績では仕方ありません。
いくら巨人ファンでも覚えているほうが珍しいのです。
わたしは何度「クロマティの顔だったらな」と思ったことでしょう。

グラッデンの顔で生きる毎日はつらいものでした。
それでも今日まで下を向くことなくやってこれたのは、
皮肉にもグラッデンのおかげです。
グラッデンの目は、きれいな青い色をしています。
その青い瞳をとおして見る世界は、
どこもかしかもうっすらと青みがかっています。
特に青に青が重ねられたわたしの空は、
ほかの誰が見る空よりも青い自信があります。
嫌なことがあった日は、空を見上げました。
すると、濃い青が心に染み入ってきて、
いろんなことがどうでもいいと思えるのでした。

わたしは、あした33歳の誕生日を迎えます。
プロ野球の神様は、今度はわたしの顔を誰にするつもりでしょうか。
背番号33の選手を思い出そうしてみたけど、
野球に興味のないわたしには誰の顔も思い浮かびませんでした。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/

タグ:上田浩和
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 上田浩和 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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