コピーライターの裏ポケット

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2014年01月26日

上田浩和 2014年1月26日放送

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ティアドロップ

       上田浩和

らっきょうは、ティアドロップ型のサングラスをかけました。
鏡を見ると、我ながらキマッてます。
革の手袋をはめて、ピストルを握りました。
これから、紅しょうがの事務所を襲いにいくのです。
しかし、ピストルのひんやりとした感触と
ずしりとくる重量感にすこし怖くなり、
これで撃たれる紅しょうがのことを思うと
すこし不憫になりました。
ピストルをいったん神棚に戻すと、
あらためて士気を高めるために、
西部警察のDVDを見ることにしました。
らっきょうは、西部警察の大ファンです。
いつも自分が主役のカレーの隣で脇役を演じているからでしょうか、
特に主役の大門に心ひかれます。
これからやくざなことをしに行くのに、
警察のドラマを見るなんてとんだ矛盾ではありますが、
そこは、しゃりしゃりとした食感が命のらっきょうです。
ちょっとした矛盾くらいならあっさり噛み砕いてしまいます。

もともとらっきょうには、紅しょうがにはなんの恨みもありません。
新しょうがに頼まれただけなのです。
新しょうがは、蕎麦屋で見かけた
「紅しょうが天蕎麦はじめました」
という貼り紙が許せませんでした。
新しょうがも紅しょうがもむかしは、
同じ食卓の賑やかしだったくせに、
いまでは主役級の扱いじゃないか!
天ぷらじゃなく天狗になりやがった!
らっきょうの事務所を訪れた新しょうがはそういって、
机をたたき、怒りをあらわにしました。
新しょうがの気持ちがよく分かるらっきょうは、
その依頼を引き受けることにしました。

西部警察のオープニングが流れたあと、
爆破につぐ爆破を見ているうちに、
先ほどまでのためらいは消え、
みるみるうちに闘争心がよみがえってきます。
紅しょうがの体が弾丸によって木っ端みじんにくだける姿を
想像するとわくわくしてきます。
新しょうがには悪いけど、新しょうがの依頼のおかげで、
自分が主役になれるような気がしてきます。
神棚からピストルを降ろし、さぁいくぞ、と立ち上がった瞬間、
黒電話が鳴りました。
相手は、新しょうがでした。新しょうがは、
あれから考えが変わったのです、と言いました。
紅しょうが天蕎麦とは言っても、主役は蕎麦ですものね。
紅しょうがが主役ではないのですね。
だから、この話はなかったことにしてください。

受話器を置いたあと、らっきょうはサングラスをとりました。
結局、紅しょうがも新しょうがもらっきょうも、
主役にはなれそうにありません。そういう運命なのでしょう。
天井のしみを見上げながら、らっきょうは少し泣きました。
みなさん。ご存知でしょうか。
岩下食品のらっきょうや新しょうがや紅しょうがが
甘酸っぱい理由を。それは、彼らのなかで、
いつか食卓の主役になりたいという甘い夢と、
それが叶うことはないすっぱい現実とが
まじりあっているからなのです。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/


タグ:上田浩和
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 上田浩和 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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