コピーライターの裏ポケット

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2014年04月20日

小松洋支 2013年4月20日放送

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長い旅
              小松洋支

飛行機には何時間乗ったかな。
10時間以上じゃなかったろうか。
直行便がないので、乗り換えをしなくちゃならなかった。
待ち時間が5時間!

やっと目的地の空港に着いたのは明け方で、
まだ日は昇ってなかったけど暑かった。
空港で働いている人たちはみんな明るくて、
大きい声で何か言っては笑っていた。

それからクルマで1時間。
事務所で係りの人がぼくの顔を見てヒューと口笛を鳴らした。
まだこの先長いよ、ということなんだろう。

違うクルマに乗ってまた2時間。
着いたのは狭い港町で、
煉瓦づくりの小さなアパートがひしめいていた。
あたりには揚げた魚とジャガイモの匂いが漂っている。
はだしの子どもたちがボールに群がっている。

クルマを運転してきた男といっしょに船に乗りこんだ。
海は凪いでいる。
底の岩礁までとどくほど陽射しが強い。
ウミネコが鳴いている。
いくつも島が見える。
あの島かな、と思うと通り過ぎる。
また通り過ぎる。
ときどき浜辺でこちらに手を振る人がいる。

お昼近くになって、ようやく船が速度をゆるめた。
岸近くまで濃い緑におおわれたちっぽけな島の、
白く塗られた桟橋に停まる。

男はぼくを連れて、急な坂道を上っていく。
名前を知らない南国の花が咲き乱れている。

坂のてっぺんに赤い屋根の家がある。
ドアをノックするとブロンドの女が出てきた。
目じりに笑いじわがある。
おおげさな身振りでぼくたちを歓迎する。

やがて男は片手をあげて挨拶し、船に戻っていった。
ひとりになった女はぼくをじっと見つめた。
「ずいぶん久しぶりだこと」
ぽつりと口に出す。

それからぼくの封を切り、ひろげて読みはじめた。
何度も、何度も、読み返す。

「ばかね」
女はつぶやいた。

ぼくの上に、ぽたりぽたりと、涙が落ちた。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/


タグ:小松洋支
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小松洋支 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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