コピーライターの裏ポケット

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2015年01月11日

福岡郷介 2015年1月11日放送

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健太郎の寝ぐせ

        文:福岡郷介

健太郎は今日も朝8時に目を覚ました。
彼の生活はおおむね規則正しい。
少なくともここ2年の間は、この時刻に起きている。
ただ、寝相はかなり悪い。
一晩中寝返りを打っているし、ベッドから転げ落ちることさえある。
そのせいで寝ぐせが大変なことになる。
今朝も頭頂部の髪の毛が、右に左に飛びはねている。

健太郎は特段キレイ好きというわけではないが、
毎朝必ずシャワーを浴びている。
寝ぐせを押さえつけるためだ。
シャンプーにこだわりは無いらしく、値段の安さだけで選んでいる。
いま彼が泡立てているのは、薬局で安売りしていた女性用シャンプーだ。
本当は髪質に合うものを使うべきだが、
シャンプーが色んな髪質に合わせてつくられていることさえ知らないのだろう。

いつものように、健太郎は頭からつま先までを上から順番に洗っていった。
彼の右ふとももの内側には正三角形を成す3つのほくろがある。
それは少なくともここ2年の間に一夜を共にした女性たちの
ほとんど全員から指摘された、きれいな正三角形だ。

健太郎は青のストライプが入ったボクサーパンツを履いて、
灰色のスーツに着替えはじめた。
ネクタイは薄い緑色を選んだ。
そして念入りに髪をセットして、
自宅から徒歩圏内にあるオフィスに向かった。
今日も健太郎は朝食をとらなかった。

会社のデスクに座ったのは9時20分。
パソコンの電源をつけて、それが起動するまでのわずかの間。
健太郎のはす向かいの席に座った私に、彼が挨拶をした。

「おはようございます、篠崎さん。」
「おはよう江口君。ステキな髪型ね。」
「いや、実は寝ぐせがすごくて大変なんです。」

知ってるよ、健太郎。そんなこと知ってる。
私ずっと見守ってあげてるんだもの。
健太郎。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/


posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 福岡郷介 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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