コピーライターの裏ポケット

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2015年01月18日

小松洋支 2015年1月18日放送

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山羊さん郵便
               小松洋支

白山羊さんは黒山羊さんに手紙を書いた。

「この前、遊びに来たとき
あなたは私がだいじにしていた手すきの和紙を
こっそり持って帰ったでしょう。
あれは細川紙という紙で、最近世界遺産に登録されたのです。
どうかすぐに返してください」

書いた手紙を読み返しているうちに、
白山羊さんは思わずそれを食べてしまった。

「あ」、と思ったが、もう遅かった。
左手に「どうかすぐに返してください」と書かれた
便箋の切れ端が残っているだけだった。

白山羊さんは考えた。
何を返してもらうのだったっけ?
思い出せないので、黒山羊さんに手紙を書いた。

「どうか返してください。
だいじなものなんですから。
この前うちから持って行ったでしょ、
ほらあれですよ、あれ」

今度は食べないように目をつぶって急いで封筒に入れ、
コンビニの前のポストに入れた。

黒山羊さんは手紙を受け取った。
読もうとしたが、気づくと食べてしまっていた。

「あ」、と思ったが、もう遅かった。
左手に「ほらあれですよ、あれ」と書かれた
便箋の切れ端が残っているだけだった。

黒山羊さんは考えた。
白山羊さんが言う「あれ」って何だろう?
思いつかないので、白山羊さんに手紙を書こうとした。

だが、待てよ。
手紙は食べてしまうに違いない。
で、eメールにした。

「TO 白山羊様
ちょっとおたずねします。
あれ、というのはどれのことですか?」

が、それは文字化けしていて
メソポタミアの粘土板みたいだった。

白山羊さんはすぐに返信した。

「TO 黒山羊様
あいにくメールの具合が悪くて読めませんでした」

が、それは文字化けしていて
エジプトのロゼッタストーンみたいだった。

黒山羊さんは仕方なく手紙を書くことにした。
電話すればすむことなのに、
悲しいかなウシ科の動物は考えがそれに及ばない。
食べてしまわないように息を止めて書いた。

白山羊さんは手紙を受け取った。
封筒を開けると、手すきの和紙に
のたくったような字でこう書いてあった。
「さっきの手紙のご用事なーに?」


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/



タグ:小松洋支
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小松洋支 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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