コピーライターの裏ポケット

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2015年02月08日

渋谷三紀 2015年2月8日放送

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「もうひとつの顔」

   渋谷三紀

斜め45度の顔。
自撮りを始めて知った、自分の、もうひとつの顔。
あ、自撮りというのは、
自分で自分の写真を撮る行為のこと。

スマホのカメラの性能と
女の子たちのテクニックの進歩はめざましい。
自撮り写真と本物を比べて、
「詐欺!」なんて騒ぐ輩もいるけど。
だまされるほうが悪いのだ、とばかりに、
日々、女の子たちは自撮りに励んでいる。

中でも、斜め45度から写すのは、
自撮りにおける基本中の基本。
上目づかいで顎をひけば、
整形かってくらいに目は大きく、
しかも小顔に撮れてしまう。

子供の頃から、
外見に強烈なコンプレックスを抱えていた自分も、
自撮りの快感にとりつかれたひとり。

ほかに趣味もなかったから、
給料と週末のほとんどを自撮りにつぎこんだ。
楽天から届く段ボールには、
大量のマスカラ、アイライナー、つけまつげ…
1mm変えれば、顔は変わる。
気づけば、メイク落としのコットンが、
床に山をつくっていた。

やがて、自分で見るだけでは飽き足りなくなり、
「KAORU」のアカウントで、ネット上に公開した。
トレードマークは、ボブのウィッグと左まぶたに描いたほくろ。

見られてキレイになる。というのは本当で。
自撮りの腕を上げるにつれ、フォロワーがふえた。
見てくれるのがうれしくて、また腕を上げ、
さらにフォロワーをふやした。

「KAORU」のフォロワーが8000人をこえた頃にはもう、
斜め45度の顔は、
自分でさえ自分の顔だと思えなくなっていた。

自撮りのことも、「KAORU」のことも、
自分だけの秘密だったけど。
もうひとつの顔で、多くのひとに愛されている自信は、
現実にもいい影響をくれた。
「最近明るくなったね」と声をかけられたり、
芳しくなかった営業成績も、少しずつ上向きはじめた。

その理由には、誰も気づいていない。
一生、気づくことはないだろう。
そう思うと、変な優越感さえ湧き上がってくるのだった。

パシャッ。
今日もカメラに向かいポーズをとる。
やっぱり、俺はキレイだ。
ふと、髭剃り跡の青さが気になった俺は、
顎にファンデーションをぬりたくり、
再びシャッターを切りはじめた。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/

タグ:渋谷三紀
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 渋谷三紀 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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