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コピーライターの裏ポケット
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2011年08月07日
岩崎亜矢 2011年8月7日放送
「うそつきと呼ばれる女の話」
岩崎亜矢
私のことをみんな、うそつきと言うの。
うそばっかり言うと、呆れたり、馬鹿にしたり、怒ったりする。
でも私、それがどういうことなのかがわからない。
太陽を赤いという人がいれば、黄色いという人がいる。
すべての天体が地球の回りを回っているという人がいれば、
太陽の周りを回っているという人がいる。
生まれた場所や時間がかわれば、
うそはホントになり、ホントはうそになるでしょう?
だから私、わからないの。
「なんであの子はうそをつくの?」って、ヒソヒソとささやく人たちのことが。
「そんなにうそをついて楽しい?」って、悲しそうな顔をして聞く人のことが。
私はうそをついていない。ホントのことしか言っていないのに、
みんなはそれがホントのことだと知らないだけなのよ。
私はもしかしたら、生まれる場所を間違えたのかしら。どこか未来か過去から、
タイムスリップしてきたのかしら。そんなことを考える。
もしもタイムスリップしたというのなら、私はタイムマシンを作るしかない。
だけど、物理でも数学でも、先生たちにため息をつかれる点数だった私が、
現実的に考えて、そんなものを作れるわけがない。
理数系の学者と付き合うって手も考えたけれど、
物理学者か工学者か数学学者か、果たしてどんな人が
タイムマシンの設計に向いているのかなんて知らないし、
付き合ったとしてその人がタイムマシンの設計に成功するかなんて
ちょっと気が遠い話で。
なら、場所を変えるのはどうだろう。
飛行機で飛ぶだけなんだもの。お金さえあれば簡単だしと思ったけど、
私の「ホント」をホントとして捉えてくれる国が
果たしてこの広い世界のどこにあるのか。
それを探るためにはそれこそ世界中を巡らなければならいけれど、
私には仕事もあるし、そんな世界を旅するお金もない。
結局、八方ふさがりになってしまった。
みんな私のことを信用できないって言うけれど、
それはこっちのセリフよね。
私こそ、ヒソヒソ話をするような人たちを信じられない。
そう考えると、だんだんと人と会うのも嫌になってしまって、
最近では仕事が終わったら、すぐに家に帰ってきてしまう毎日を送っている。
こんなの私じゃない、こんなんじゃダメって思いながら。
でもね、私、気づいたの。
世界中を旅しなくても、タイムマシンをつくらなくても、
私を救う方法があるってことを。
それは、私の「ホント」をホントとして
受け止めてくれる人を探せばいいってこと。
私の言うことを心からぜんぶ信じてくれて、
「そうだね、その通りだね」って相づちを打ってくれる人。
そんな人と結婚すればいい。ただ、それだけなのよ。
私、見た目は悪くないし、結構家庭的で働き者だから、
きっと相手を幻滅させたりはさせないわ。
ねえ、もしもそんな男性に出会ったら、すぐに私に知らせてね。
「そんな人いるわけないじゃない。うそばっかり!」なんて、
私、絶対に言わないから。
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
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