コピーライターの裏ポケット

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2012年01月01日

大友美有紀 2012年1月1日放送

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物足りない気がする

           大友美有紀

昨日、メガネをなくした。
彼女はあっけらかんと言う。
その前は、名刺入れ。
ハンカチや、タオル、
マフラーもなくしたことがある。
傘は、しょっちゅう。

携帯とか、お財布とか、デジカメとか、
なくすと、ほんとうに困るなぁっていうものは、
すぐに探すのよ。
夕べのお店に電話したり、
タクシー会社や電車の会社に問い合わせたり。
遺失物届けを出すこともある。
そういったものは、だいたい戻ってくるね。
メガネは、微妙なのよねぇ。
新しいデザインのにする、チャンスかなって
思っちゃってさ。

でもね、と続ける。
もっと、くだらないものもなくすでしょ。
ストラップの、メインのチャームの横に
確かに何かがついていたはずなんだけど、
無くなってる何か。
お財布でも、チャックのタブに、もういっこ飾りが
ついていたはずなんだけど、わからないもの。

ある日、ふと何か物足りない気がして、
無くなったことに気がつくもの。

ふだん気がつかないぐらいだから、
そんなに大切なものじゃない、はずなんだけど。
無くなっていると、裏切られたような気がするの。
あたしのとこから、勝手に去っていっちゃったって。

何を落としたのかもわからないし、
どこで落としたかもわからないから、探せない。

彼女は、さみしそうに笑うと、話題を変えた。

僕は、思う。
きっと、彼女が探すのをやめたモノたちが
集まっている場所があるんだ。

そこは、
やわらかい光にあふれていて、
ふんわりした素材で出来た小部屋。
すべての人にそういう小部屋があるんだけれど、
忘れ主の個性によって、ちょっとずつ雰囲気が違う。
小部屋を見回る妖精がいて、
忘れられたモノたちを、ひとつひとつ愛でて、
微笑んでくれる。
いつか忘れ主の元に戻れるように、祈ってくれる。

いつか戻れるのだろうか。
僕がぼんやり考えていると、
彼女が明るい声で言った。
このあいだ観た、あの映画、面白かったねー。
その映画を一緒に観たのは、僕じゃないけれど、
そうだね、と応えた。

僕は、いつかきっと、
メインじゃないチャームが待ってる、
あの小部屋に行くんだろうか。

それも悪くないかもしれない。
その部屋にあるものを全部もって、
君のところに帰ってきたいな。

いつかきっとね。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/

イラスト提供:ふわふわ。り http://shimizumari.com/fuwa2li/
タグ:大友美有紀
posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 大友美有紀 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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