コピーライターの裏ポケット

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「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです




2013年09月22日

勝浦雅彦 2013年9月22日放送

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最終回

         勝浦雅彦

はい、今週のヘビロテ、三連発でした。

さあ〜て、いよいよお別れのときが来ちゃいました。
足かけ10年かあ。毎週日曜日、夜の22時から30分、
一度もお休みすることなくこの番組を続けてこられたのも、
ラジオの前のみんなと愛すべきスタッフのおかげかな。
ホント感謝です。

この番組がはじまった頃は、まだ小娘だった私も、
今では「サキ姉」なんて呼ばれて堂々としたアラサーになりました。
でも気持ちは乙女そのもの…ちょっと鈴木D、今笑ったでしょ?
覚えておきなさいっ。
まあ、あなたとの長い付き合いに免じて焼肉一回で手を打つわ。

いけない、残り時間もわずかなのに、ムダ話に使っちゃった。

さて、今から最後のお便りを読もうと思います。
毎週たくさんのお便り、ほんとサンキューね。
恋バナからマジな人生相談まで、私なりに、みんなと一緒に、
悩んだり、考えたり、励まし合ってきたつもり。
最後も、精いっぱい気持ちを込めて読みます。

では。

サキ姉 こんばんは。
この番組が終わると知って、とても寂しく思っています。
私はずっとサキ姉のラジオを聞いてきました。ずっと、ずっとです。
だから、サキ姉の声の微妙なトーンで、何かいいことがあったな、とか、
落ち込んでいるな、とかが大体わかるようになりました。
私がある事に気づいたのは、2年前ぐらいからです。
番組でラブソングが流れた後の、サキ姉の声のトーンが、
それまでとはまるで違うことに気づきました。
それは他の誰かからすれば、あまりに細かな違いかもしれないけれど、
私にははっきりとわかったんです。
サキ姉、あなたは恋をしていますね。
それだけではない、この半年で、サキ姉の声が少しかすれ始めました。
最初は、疲れているのだな、と思いました。
でも、私は思い出したんです、女性は、ホルモンのバランスに変化が出ると
声が変わってしまう事がある…。
私はようやくすべてを理解しました。
なぜこの番組が終らなくてはいけないのか。
ホルモンの変化、それが目に見えて起きるとき。
おめでとう!サキ姉と、新しい命に。

…みんな、ありがとう。
私はラジオの前のみんなと誰一人として会ったことはないけれど、
こうしてブースの窓から街を見ると、
遠くの光の向こうに、みんなの息づかいを感じます。

私はこれからしばらくの間、ゴシップ大好き、下ネタOK、
ガハハと笑うみんなのサキ姉から、一人の女の子に戻ります。

あ、鈴木Dがまた笑った。女の子って年かよって顔してる。
相変わらず女心のわからんやつよ。
でも、鈴木Dをこう呼ぶのも今日で最後。
こんどからはそうねえ、「あなた」って呼ぶのかしら。
おえっ気持ちワルっ。
まあ、いいわ、三人で楽しくやれるといいけどねえ。

時間が来ちゃった。最後にひと言だけいわせてください。

おまえら、最高だよっ!


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/

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2013年07月07日

勝浦雅彦 2013年7月7日放送

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「平凡保険」

         勝浦雅彦

その日、東京には初雪が降った。息を吸い込むと、
胸の奥がちりちりと痛くなるような寒い夜だった。

ベッドの前には人だかりができていた。横たわるのは、ひとりの老人。
もう意識はないが、その表情は穏やかだった。ふいに、心電図が波打つのをやめた。
無機質な電子音が鳴り響くと看護婦がちらと医師の顔を見た、彼は進み出て告げた。
「ご臨終です」
人々が息を飲んだその時、
「カット!」
という勢いのある声が響いた。
ざわっと、その場の緊張がほぐれていく。メガホンを持った男が叫んだ。
「これで、友人、知人役の役者さんの勤務は終了です。
親族役の方は引き続き、葬儀を行いますので、移動をお願いしまーす」

田中かずみは、看護帽を脱ぐと、ふっとため息をついた。

「平凡保険」
その保険会社の面接で、取扱い商品の名を聞いたかずみは、キョトンとした。
でっぷり肥った、面接官は真顔でこういった。
「田中さん、あなたは自分の人生をどう思っていますか?
お話からして、きわめて平平凡凡。
おや、ご不満ですか?でも、それは最高の幸せなのですよ。
平凡であることの価値をわかってらっしゃるお客さんはたくさんおります。
そういう方は、自分の大切な人に対して、不動産でも膨大なお金でもなく、
誰から見ても普通で平凡な人生を残そうとするのです」

平凡保険の仕組みはこうだ。

たとえば、両親を亡くした子どもがいるとする。平凡保険に入っていれば、その両親の代役がその人生にそっと入りこみ、今までどおりの生活を送らせるのだ。
物心がついていた場合、速やかに催眠療法がおこなわれる。
かくして、受取人はまるで人生に波風など立たなかったように生きていける。

かずみは、5年前、息子夫婦と孫を事故で亡くした老人への平凡保険業務を今夜で終えたのだった。天涯孤独だったはずの老人は、家族や知人に看取られ安らかに旅立った。
むろん、演技研修を受けた、保険会社の社員や、外部委託の役者たちだが。

帰宅したかずみは、部屋のコタツに入り、みかんを食べながら考えた。
そもそも、平凡平凡っていうけど、平凡な人生なんてあるんだろうか、と。

かずみは押し入れから、古いビデオテープが入った箱を取り出した。
九州の実家の物置の奥底にあったのを見つけ、こっそり持ってきたものだ。

ビデオの中では、産声を上げたばかりのかずみの泣き顔や、
母がかずみを抱き上げて、父に笑いかける姿が映っていた。
よくあるシーン。かずみはひとり言をつぶやいた。
ちょっと笑いがこみあげてきた。
これが平凡なら、それはそれでいいのかもしれない。
あの面接官に言われたときはちょっと、むっとしたが、
私はけっこう幸せなのだ。
そんなことを考えながら、
かずみはテーブルにつっぷして、いつしか眠りについていた。

「カット!」
もう少し見続けていたら、かずみは、
ビデオの中の両親に向かって叫ばれた誰かの言葉を
聞いたかもしれない。
「ダメダメ、そんなんじゃ!この子は『愛情豊かに育てます特約』が付いてるんだから,
もっと可愛がってあげて!それじゃ、よーい、スタート!」

その晩、かずみは両親の夢を見た。


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2012年02月05日

勝浦雅彦 2012年2月5日放送

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がシャ子の恋

           勝浦雅彦

その日、ガシャ子は、かつてない真剣な顔で、
私をもんじゃ焼き屋に呼び出した。

好きな人がいる。そしてその人は隣のクラスにいるという。

ガシャ子はクセっ毛で、それをいつもいじっている。
ロングにすると宣言したものの、クセッ毛は猛威をふるい、
彼女はドーナツ棒のような不思議な髪型になり、
頭頂部はピンとはねてクシャクシャになっている。
おかげで、かずこという名前が、
ガシャ子というあだ名に様変わりしてしまった。

ガシャ子はそのクセっ毛をいじる手を止めると、ピンと正座し、
私に「協力してほしい」と頭を下げた。
約1年も片思いをしているという。
もう限界だ、告白をしたい。そう、つぶやいた。
ガシャ子は古風な子だ。コクる、なんておかしな日本語は使わない。
こういうところが気が合う。

友よ、と私は言った。そうか、キミにもその時がきたか。
キミとのつきあいは長いが、キミが髪を伸ばしだしたのも、
授業中に上の空だったのも、すべて納得がいった。
で、キミのハートを鷲掴みにした殿方は誰なのか、
わたしにそっと教えたまえ。
ガシャ子は、一通りもったいぶったあと、
プチトマトみたいに顔を真っ赤にして耳打ちした。
その名前を聞いた私は、一瞬息を飲んだ。

放課後のチャイムが鳴り、いよいよ決戦の時はきた。
ガシャ子と待ち合わせて、指定の公園に向かう。
その横顔をちらっと見ると、しおらしい様子はなく、
決闘に向かう侍のようだ。私の役目は、決闘の立会人だ。
何も言わず、黙って見守る。

彼が姿を現したのは、待ち合わせ時刻の3分後だった。
バスケ部のエースらしく、長身が夕陽によく映えている。

私が見守るなか、ガシャ子がゆっくり彼に近寄る。
公園に二つの影が伸びていく。
と、ガシャ子は彼と並んで私のもとへ歩いてきた。

「はい、私の役目はここまで。あとはお二人でどうぞ」
とガシャ子は言った。
「え?何それ?」
私は動揺し、次の瞬間すべてを悟った。
見抜かれていた。私もずっと彼が好きだったことを。

「へへ、ドッキリ大成功。演技、うまかったでしょ。
では、ごゆっくり」
ガシャ子は背を向けて少し小走りに駆けていった。
私は彼と二人残された。

「あの子が一生懸命頼むから来てみたんだけどさ、どうするの?
今は彼女いないからつき合ってもいいけど」
怪訝そうな顔から吐き出されたその言葉を、私はもう聞いてはいなかった。

ちがう、あれは演技などではない、ガシャ子のことなら何でもわかる。
なにせ長い付き合いなのだ。
私は、夕暮れの街を彼女の背中を追いかけた。
きっと追いつけるはずだ。
そして、不思議そうに見つめる顔に、こう言うのだ、
「あんな自惚れ野郎、もう興味ないわよ」
ガシャ子は苦笑いして、クセッ毛をいじりながら言うだろう、
「ダメよ、そんなはしたない言葉」
私たちは古風なのだ。だから、気が合う。


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