こちらのブログは
「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです
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コピーライターの裏ポケット
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2014年09月14日
太田祐美子 2014年9月14日放送
ポトラッチ
太田祐美子
ポトラッチ。
贈り物をされたとき、そのお礼として、
さらに高価なものをお互いに贈り合い続ける。
とある民族の儀式のことだ。
たとえば。
ある村の酋長が、隣の村の酋長の家に招かれたとき、
手みやげとして魚の干物を贈る。
そんなフランクな感じでポトラッチは始まる。
隣の村の酋長は、感謝の気持ちを示すために
いただいたものより高価なものをお返ししたいと考える。
そして、干物のお礼に砂糖を贈ることにする。
そのお礼に、砂糖より高価なもの。ヒグマの毛皮が贈られる。
そのお礼のお礼に、銅のネックレスを贈る。
そのお礼のお礼のお礼として、ついに現金が贈られる。
酋長たちは負けず嫌いだったんだろう。
ポトラッチはさらに加熱する。
現金のお礼は、現金より高価なもの。
なんだ、なにがいい。
隣の村の酋長は、最愛の妻を贈ることを決意する。
人妻を贈られた酋長は、自分の家を焼き払う。
気が狂った訳ではない。大切なものを贈るどころか
それを破壊することで、返礼のさらなる高みを目指そうとしたのだ。
そのお礼は、もうひとつしかなかった。
ポトラッチ。最後には、自分の最も大切のもの。
自分の命すら差し出すこともあったという。
つきあって3年。
ピアス、財布、ネックレス、バッグ。
お互いの誕生日にプレゼントを贈り合ってきた。
そろそろ小箱がパカッとあいて、
暗黙の了解的に左手の薬指につけるアレが
贈られる頃合いなんじゃないの?
そう思っていたんだと思う。
彼が私にくれたものは、靴だった。
かわいいけど、うれしいけど。
私は大学の人類学の授業で学んだ、
ポトラッチのことを思い出していた。
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:太田祐美子
2012年07月01日
太田祐美子 2012年7月1日放送
「人類について」
太田祐美子
ルーシー。
1974年、エチオピアで発見された人類最古の化石。
アウストラロピテクスの女の子、ルーシー。
私は人類の起源に思いをはせていた。
ルーシー。
身長110センチ、体重29キロ。
発達した脳を支える頭蓋骨と、直立二足歩行の痕跡。
ルーシーによると当時の人類は、
幅の広い骨盤と胸郭を持ち、
足は手ほどの長さしかなかったらしい。
大きなお尻で鳩胸で短足気味な女の子。
ルーシーを浮かべて、私はふと思う。
ルーシーだけだったりしないの?それ。
ルーシーによると当時の人類は、
石器をつかった形跡がないらしいけれど、
彼女が特別に不器用だった可能性はないのだろうか。
たまたま保存状態が良かったから、
318万年前の人類代表になってしまったルーシー。
そのたまたまは、私にもじゅうぶん起こりうることだった。
もしも私が今ここで息絶えたなら。
もしも何百万年かの後に私が化石で発見されてしまったなら。
ゆうこ。
身長158センチ、体重53キロ。
ややたれたお尻に、平たい胸。
この大胆な寸胴は、ウエストという概念が
当時の人類にはなかったということになりはしないか。
もしも私が今ここで息絶えたなら。
おちおち化石になってしまったら。
当時の人類には、眉毛がないことになる。
当時の人類には、左足の親指に魚の目があることになる。
当時の人類には、ストレス解消という名目のもと、
1本だけと言いながらもう1本ビールを開けてしまう風習があり、
そんな日はテレビをつけたまま寝てしまう習性に加えてその翌朝は、
寝過ごしたからこのまま会社に行ってもどうせ遅刻だから
いっそ休んじゃったほうがいいのかもと思う価値観がある。
ということになる。当時の人類には。私によると。
生きなくては、起きなくては。
今日も私は、えいやとベッドを出る。
今を生きる全人類の名誉にかけて。
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
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