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コピーライターの裏ポケット
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2012年08月12日
原晋 2012年8月12日放送
日曜と月曜の狭間で
原 晋(はら すすむ)
なんだか妙に暑くて目覚めた月曜の朝、私は犬になっていた。
なんとしたことか。
しかし救いはあるというべきか。
レトリバーは好きな犬だ。
ブロンドの毛は人間の私にはない美しさ。
とりあえず布団に入っている場合ではない。
起きよう。
家族は私を見て何を思うのだろう。
かわいいと思ってくれるだろうか。
そんなことより私だとわかってくれるのだろうか。
ここは私らしくぶつかってみると心に決める。
まずはトイレへ行く。
なんとかドアは開いた。
小型犬だったらさっそく粗相をしていたところだ。
われながら犬としては優秀だ。
次は洗面所だ。
顔を洗いたいけれど、肉球では水がすくえない。
第一、 蛇口を回せない。
ふと鏡の中の自分と目が合った。
端正な顔立ちをしている。
ようやく来るモテ期を、まさか犬として迎えようとは。
まあ、いい。
顔を洗うのはあきらめよう。
家族の待つダイニングへ向かうとしよう。
ドアを開ける。
家族は私を見る。
おはようと声をかけられる。
おはようと返したつもりだが、ワンと声が出た。
そして何事もなかったように朝ごはんが出てくる。
しかも床に置かれている。
ドッグフードである。
おかしい。
昔から飼われていたかのように扱われている。
意識がもうろうとなる。
朝ごはんの味がしない。
そもそも味がうすいのか。
味はしないが、この歯ごたえはくせになる。
コリコリと小気味のよい音を立てる。
歯磨きを兼ねているから、食後はすぐにでかけられるのが、いい。
食べ終わったら、よし、散歩へでかけよう。
ラッシュアワーのビジネスマンを、見上げてみよう。
そうして私は決意するのだ。
もう人間には戻らないと。
日曜も、月曜もない朝を、毎日迎えるのだと。
犬として一生を全うするのだと。
そんな月曜の朝を迎えてみたいと思いなが
らふとんに潜り込む日曜の夜。
朝が来ると、またいつものように仕事へでかける人間が一人、
ふとんから起き上がる。
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
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