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「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです
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コピーライターの裏ポケット
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2012年09月02日
室井由希 2012年9月2日放送
「まさおとペンギン」
室井友希(むろいゆき)
ヤンキーのまさおは道でごみを拾っていた。
「みどり町 一斉クリーンキャンペーン」のこの日、
町内の家族連れや中高年にまじって、
長ランの学生服・リーゼント頭で、
ひとり一心不乱にごみを拾うまさおの姿は異様だった。
「とんとん」
まさおは誰かに背中を叩かれた気がして振り返った。
そこには一羽の大きな大きなペンギンがいた。
「ペンギン?!」
まさおは思わず声をあげた。
「ちがう! はらまきペンギン!」
ペンギンは答えた。
小太りなペンギンだった。そしてなぜか腹巻をしていた。あと、なぜか日本語をしゃべった。
理解の範囲を超えていたので、まさおは見なかったことにしてふたたびごみを拾いはじめた。
ペンギンはまるでつきたてのモチのようなモッチリとしたおなかをおしつけて、
まさおの後をついてきた。
「オメー、なんなんだよ!」
「はらまきペンギン」
「ついてくんなや!」
「ついていく」
もうどうにでもしてくれと、まさおはしぶしぶごみを拾い続けた。
しかし、どうしても気になることがひとつだけあった。
「っていうか、なんでペンギンのくせに腹巻してんだよ!」
「さむがりだから。すごく。
おまえは、なんでごみを拾ってるんだ? ヤンキーなのに。」
「ヤンキーがごみ拾って悪いかよ!」
まさおの目が一瞬真剣になったことに、はらまきペンギンは気付いた。
「ごめん、はらまきペンギンが、わるかった。
だいじな理由があるのか?」
「 ・・・先輩が・・去年、バイクで・・
道に落ちてた空き缶でスリップして・・・
だから俺・・ごみ拾おうって決めたんだ。もう先輩みたいな事故、見たくないんだ」
「そうか・・・」
はらまきペンギンはすこしだまった。
そして、
いきおいよく腹巻を脱いだ。
「おまえ、さむがりなのに腹巻脱いでいいのかよ!」
「いいんだ。まさおの心があたたかいから」
みどり町一斉クリーンキャンペーンの、
ごみを拾う人たちの輪の中に、
さむがりで小太りなペンギンが一羽、加わった。
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
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