コピーライターの裏ポケット

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2014年06月08日

三國菜恵 2014年6月8日放送

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アルバイト

       三國菜恵

わたしは少女Aです。
となりにいるのはおっさんBです。
おっさんBは写真家です。

おっさんBに雇われて
わたしはここ数日、代々木公園で撮影アシスタントのバイトをしています。
アシスタントの仕事はかんたんです。
おっさんBの隣を歩いて、
言われた位置に立ってストロボを持つだけです。

おっさんBは、公園に寝そべるカップルを撮影しています。
撮影、というより
採集、と言ったほうが近いかもしれません。
シートの上にちぢこまって座る2人を
フレームの中におさめていくカップル採集。

おっさんBはプロフェッショナルなので、
撮影可能なカップルをすぐに見抜きます。
「犬を連れている人はだいたい撮らせてくれる。後回しでよし」
「噴水の近くは外国人が多い。彼らもすぐ撮らせてくれる」
「制服のカップルは滞在時間が短い。すぐに声をかけないと」
そう言って高校生カップルに駆け寄るおっさんB。
昼下がり。時計は3時12分。

「そうそう、そのままそのまま」
シートに寝そべってチュッパチャプスをなめている2人を
おっさんBは撮影する。
映写機かと思うくらい、でかいカメラで撮影をする。
ぎょうぎょうしいカメラのほうが
偉い写真家だと思ってもらえるので都合がいいらしいのだ。

おっさんBはつぎつぎ採集を続ける。
パーカーを着た、ヒマそうな大学生カップル。
たぶん不倫中の、あみタイツの女とスーツの男。
きょうの最後の一組は、タンクトップの青年と黒いTシャツの女だった。
話せば、ふたりは女性どうしで、
タンクトップの青年のほうは、実は元女性だったという。
彼を指さし、彼女は言う。
「明日この人韓国に帰っちゃうの、撮って撮って」
写真のなかにおさまった二人は、
ただの美男美女のカップルだった。

公園のチャイムが鳴った。
バイト終了の合図です。
おっさんBはいつものようにバイト代5000円と缶ビールをくれます。
「それじゃあまた頼むね」
そう言って毎度のように去っていきました。

わたし、少女Aは
大人はビールしか飲まないものと
かんちがいして大人になりました。


出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/

posted by 裏ポケット at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 三國菜恵 | 編集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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