コピーライターの裏ポケット

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「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです




2010年10月10日

照井晶博 10年10月10日放送

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ノウズ
        照井晶博

最近、鼻毛のびるのがやけに早いなぁ。
やっぱりタバコの本数が増えたせいなんだろうか。
それとも都会の空気がどんどん汚れているからだろうか。
彼も最初はそう思っていたらしい。
鼻毛はおそろしい速度で伸び続けた。
朝、鼻毛をカットしても、
夕方になるともう、鼻の穴からこんにちは。
……という時期はかわいいものだった。
夜、切ってから寝ても、朝起きると、鼻の穴からサルバドール・ダリ、
というシュールな毎日が繰り返されると、
彼はこの異常な鼻毛を受け入れることに決めた。
不思議なことに、鼻の穴をふさぐくらいに鼻毛がのびようとも、
彼は全く息苦しくなかったし、
それどころか彼はこの鼻毛によって、ある不思議な力を手に入れたからだ。
まず、彼は、天気の変化に敏感になった。
突然の雨が、降り出す前に分かるようになった。
自分が手に入れた力がどうやら予知能力のようなものらしく、
異常にのびた鼻毛は様々な変化を敏感に察知するセンサーのようなものらしい、
と気づくまで、そう時間はかからなかった。
彼は鼻毛の力で、株でとんでもない財産を築き、やがて恋に落ちた。
その女性は、とてつもなく美人で、
彼のような男のことなんて見向きもしないだろうと誰もが思うような人だった。
でも、彼にはわかっていた。
彼女が自分を好きになってくれることを。
彼の異常な鼻毛も、個性だとして受け入れ、愛してくれることを。
彼女は、彼が予知した通り、いや、それ以上に彼を愛してくれた。
彼はしあわせだった。
しかし、彼にはわかっていた。
このしあわせがそう長くは続かないことを。
自分がいつか、彼女に殺されてしまうということを。
だから、その前に、
自分が彼女をきっと殺してしまうということを。



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2010年06月06日

照井晶博 10年6月6日放送

po.jpg

◯◯◯探偵
         照井晶博

「そうか。犯人はあの人だったのか…」
探偵はついに事件の真相にたどり着いた。
月明かりが街を静かに照らす夜、探偵はレイモンド家へと向かった。
真犯人を明らかにし、忌まわしい事件に幕をおろすために。
長い捜査ですりへってしまった足をゆっくりとひきずりながら、
探偵はレイモンド家の屋敷に入った。
広間のドアの前に立つと、探偵は乱れがちな息を整えた。
ドアの向こうに、レイモンド夫人と三人の娘、そして弁護士がいるのがわかる。
「犯人はこの中にいる」
探偵は、ドアノブをゆっくりと回し、体をひきずるように広間へと入っていった。
「はじめまして。亡くなられたご主人に依頼を受けた私立探偵のロメロです」
突然現れた探偵に、広間にいた人々は一瞬声をなくした。
探偵は言った。「ご主人のレイモンド氏を殺害した犯人は……」
「キャーーーーーーー!」
最初に悲鳴をあげたのは、レイモンド夫人だった。
夫人の絶叫は瞬く間に全員へとひろがった。広間中に響き渡る全員の悲鳴は、
真犯人を告げようとする探偵の声をかき消してしまった。
「ちょ、ちょっと皆さん、聞いてください。真犯人は…」
「キャーーーーーーー!」
広間にいた全員は、泣き叫びながらもうひとつのドアから走り去っていった。
「ちょ、ちょっと待って!」
探偵は、足をひきずりながら彼らを追いかけようとした。
でも、あきらめた。彼はもう走れる体ではないのだ。
「あーあ……」
探偵は力なく窓を見た。
そこには、この世のものとは思えない顔色で悲しく笑う、
ひとりのゾンビが映っていた。



柴草玲 http://shibakusa.exblog.jp/
タグ:照井晶博
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