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「コピーライターの左ポケット」の
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コピーライターの裏ポケット
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2010年12月05日
紫垣樹郎 10年12月5日放送
クリスマスモーニング
紫垣樹郎(しがきじゅろう)
街がクリスマス一色に染まり始めたある日の夜、
家に帰ると、飾り付けられた窓ガラスに、
一枚の画用紙が貼られていた。
「上手に描いたのよ。見てみて。」
妻は嬉しそうに僕を窓の外へと導いた。
ベランダに出て内側から貼られた画用紙を見ると、
そこにはクレヨンで描かれた青いサッカーボールと、
サンタクロースへのメッセージがあった。
サンタさんへ。
いっしょうけんめい れんしゅうするので、
ぼくはサッカーボールをください。
「私たち、いつまでサンタさんをやれるんだろうね。」
サンタへの手紙を見ながら妻が言った。
「喜んでくれる限り、サンタの仕事は続くんだよ。」
僕の言葉に妻は笑顔を浮かべた。
そして、その夜がやってきた。
「サンタさん、来てくれるかなぁ。
ボク、いい子じゃなかったから心配なんだ。」
部屋を散らかして怒られた息子は少し弱気になっていた。
「大丈夫よ。サンタさんはきっと頑張っているところも
見ているはずだから。」
妻のやさしい言葉を聞いて安心した息子は、
ベッドに入るとあっという間に深い寝息を立て始めた。
そしてサンタの仕事は始まった。
僕は隠していた棚から袋を取りだし、
枕元にそっとプレゼントを置いた。
中にはサッカーボールと
大好きな選手のカードが入っている。
「喜んでくれるといいね。」
妻の言葉に、僕は応えた。
「サンタは期待を超えなきゃね。」
翌朝、いつもより早く目覚めた息子が叫んだ。
「お父さん!お母さん!プレゼントが来たよ!
あっ、サッカーボール。それにカードも!」
これ以上ない笑顔で喜ぶ息子を見て、妻も喜んだ。
「よかったね。サンタさん、きっと頑張っているのを
見ていてくれたのよ。」
すると突然、息子は妻の背中を指さして大きな声を挙げた。
「あっ。そこにもある!お母さんにもサンタが来た!」
妻がビックリして振り向くと、
そこにはリボンにくるまれた箱があった。
中には、以前買うのをためらったネックレスが入っていた。
「よかったね、お母さん!
サンタさん、お母さんも見ていてくれたんだよ!」
突然の展開に妻は目を潤ませ始めた。
僕は、クリスマスの朝に感謝しつつ言った。
「きっと二人の喜ぶ顔を見て、サンタが一番喜んでいると思うよ。」
出演:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
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