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「コピーライターの左ポケット」の
原稿と音声のアーカイブです
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コピーライターの裏ポケット
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2014年11月09日
永友鎬載 2014年11月9日放送
2114
永友鎬載
西暦2114年、宇宙船に乗った私たちは、
惑星ウーダの調査を終えて、約20年ぶりに地球に帰還しつつあった。
長い旅路だった。命がけとも言える調査は、想像以上の大成功を収めた。
その成果は人類に、とてつもなく大きなリターンをもたらすだろう。
調査団も莫大な富や地位、名声を得ることになる。
だが、そんなことより、私は一刻も早く家族に会いたかった。
昨年、通信機器に原因不明の異常が発生し、地球との交信が途絶えていたのだ。
妻は元気だろうか。彼女がつくるオムライスを早く食べたい。
出発前、幼稚園児だった一人娘は、もう立派な大人だ。
映像通信では何度も話していたが、実際に会ったら照れくさくて、会話に困りそうだ。
しばらくの間、家族と会える喜びに浸っていたら、
真っ暗な宇宙にようやく地球が見えてきた。
歓声を上げる調査団一行。
だが、近づくにつれ、私は思わず目を疑った。
「あっ。ち、地球が青くない…!」
船内に動揺が走った。目の前の星は本当に地球なのか。
しかし、ナビゲーションは地球だと正確に指し示している。
着陸態勢に入り、宇宙船は地表に降り立った。
急いでハッチを開ける。空はスモッグに覆われていて、
空気は淀み、水も緑もない。見渡す限り、灰色の世界だ。
同僚がつぶやいた。「まるでここは、砂の星じゃないか…」
私たちは街へと急いだ。建物はすべて損傷し、今にも崩れ落ちそうだ。
ビルの中を見に行った同僚が戻って来て、大声で叫んだ。
「誰もいない!チリやホコリで真っ黒だ!」
家族が心配になり、私は家まで全速力で走った。
20年ぶりのわが町だが、懐かしがる余裕などなかった。
私のマンションが見えてきた。
古びてはいるが、大きな損傷はなさそうだ。
ホコリまみれのエントランスを抜け、階段を駆け上がる。
チリが舞い、呼吸するのさえ苦しい。
玄関に着き、私はおそるおそるドアを開けた――。
「あーーーー。……部屋がきれいだ」
私の帰りを待っていたのは、
ロボット掃除機「ルンバ」だった。
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
2011年04月03日
永友鎬載 2011年4月3日放送
不思議なこと。
ストーリー 永友鎬載
出演 柴草玲
子どもの頃、不思議に思っていたことがある。
「浦島太郎」の乙姫は、なぜあんな玉手箱を渡したんだろう。
お土産なんだから、喜ぶものをあげるべきなのに、
浦島太郎をヨボヨボのおじいさんにしてしまうなんて。
「桃太郎」も不思議だった。桃から生まれた、ということではない。
まあそれぐらいは、エンターテイメント。OK、許せる範囲。
肝心なのは、鬼退治をしたあと、なぜ宝物を奪ったのか、だ。
桃太郎は正義の味方ではなく、よっぽどの悪人じゃないか。
ほかにもある。テレビを見るようになってからのこと。
「仮面ライダー」のショッカーは、なぜ小さな街で暴れてるんだろう。
世界征服を企む秘密結社にしては、ちょっとしょぼくない?
子どもを誘拐してる場合じゃないと、子ども心に心配してしまう。
「ウルトラマン」の怪獣も謎だ。なぜ、都会ばかり襲うのだろう。
ぼくが住んでいたような田舎には来ないのかな。
主人公のウルトラマンも不思議。スペシウム光線でとっとと
敵をやっつければ、ビルや建物を壊されなくてすむのに。
あとで弁償とかさせられたりしないのかな。
ジャンプを読むようになってからも、不思議に思うことはあった。
「キン肉マン」。そもそもこれって、プロレスなのかな。
「ドラゴンボール」。ギャグ漫画からバトル漫画に
変わったのはなぜだろう。大人の事情ってやつ?
「北斗の拳」。よく考えたら兄弟ゲンカじゃないか。
「キャプテン翼」「ハイスクール奇面組」「きまぐれオレンジロード」
「聖闘士星矢」「ジョジョの奇妙な冒険」……挙げるときりがない。
いろんな不思議を感じながら、ぼくは歳をとっていった。
ずっとひねくれたことばかり、考えていたからだろうか。
教師や官僚、公務員になる同級生が多いなか、ぼくはいま、
コピーライターの仕事をしている。ただ、まわりを見回せば、
ぼくより遥かにひねくれたことを考える人が多い。
よくこれだけのひねくれ者が集まったなって思う。ほんと、不思議。
出演者情報:柴草玲 http://shibakusa.kokage.cc/
タグ:永友鎬載